次の文章は、「Randolph T. Hesterの思想・行為・場所」(都市計画359号)の執筆時に、ランディに依頼し、日本の都市計画家、景観デザイナー、ランドスケープアーキテクト、建築家にメッセージを寄せていただいたものです(2022年7月)。また同分野の若き同僚や学生へのメッセージもいただきました。これは「都市計画359号」に掲載していますが、ここに原文と共に再掲します。 土肥真人(訳責)
「私の信じるもの、私のなすこと、私の生き方 」
ランドルフ T. へスター
毎日そして今日も、私はすべてが相互に依存しあっていることを確かめている。そして私たちの相互依存について述べてきた歴史上の預言者たちに深く感謝している。古代のイザヤやブッダから、現代のハリエット・タブマン(Harriet Tubman、19世紀の黒人女性解放家;20ドル札の肖像に採用予定(訳注))、レイチェル・カーソン(Rachel Carson、「沈黙の春」の著者(訳注))、カールリン(Karl Linn、ランドスケープ・アーキテクト(訳注))やその他多くの人々への感謝だ。彼らに敬意を示し、私も人生のための場所、自由のための場所、永続する幸福を追求するための場所を創る責任を引き受けようと思う。私は、一人ひとりの人間の精神はあるがままでありたいと願っており、より高みに上りたいと願っていることを信じている。私は、エコロジカル・デモクラシーの描く未来によってのみ、それらに到達できると信じている。エコロジカル・デモクラシーは、全体的で生態的な思考に導かれた市民参加の政府によって実現される。エコロジカル・デモクラシーは、2億5千万年の時をかけて、海底のビオシートから人類のランドスケープまで、すべての相互依存の中で進化してきた。そして私たちは選択の時に至っていると思う。人類に与えられる範囲で幸福に生きるか、生態系を理解しないまま消え去るか、である。私は、以下の8つの行動をとり、永続する幸福へと進化の舵を切ることを選択する。
1.「コミュニティ」:
「土地はコミュニティである」は、生態学の基本原則だ。悠久の時の流れる間、ずっとそうだったのだ。今日、全人類は同じ一枚の運命の織物に結び付けられている。ひとつのコミュニティに影響を与えるものは何であれ、間接的にすべてのコミュニティに影響を及ぼす。この点で私は、アルド・レオポルド(Aldo Leopold 「土地の倫理」の提唱者(訳注))とマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King, Jr)を称賛したい。生態系のコミュニティと文化的コミュニティの両方を、一つの不可分なものとして、あらゆるデザインの仕事を通して強めることに、私は尽力しよう。
2.「共通の言語」:
エコロジカル・デモクラシーは新しい市民の言語を必要とする。議論を深め、市民とデザイナーが協働でき、生態科学と土地の知恵をもって市民が物事を決定するための言語だ。それは人生を肯定する共生と市民の義務を表す高邁な言語となり、海岸線の後退を見越し小さく住まうことを示す先鋭的な言語となり、どちらも半径400mである人間の徒歩圏と休息する鳥の警戒距離を明確に語る言語となるだろう。私はこの言語を創り上げることを誓おう。
3.「自然」:
自然のランドスケープは、言葉よりも古い仕方で私たちに話しかけている。生き残るために知るべきことを語りかけ、繁栄するために必要な感覚的な喜びで私たちを満たす。自然は、生態学の理解への扉を開く。自然は経験であり、生態学の理解は適切な行動のための知的な原則である。例えば私たちが直面する危機に関心を示さない人々も、自然を愛している。そして私はただ黙って、森に遊ぶ最後の子どもを見届けるつもりはないのだ。自然を身近にして、すべての子どもが毎日触れられるようにし、マウンテンライオンに食べられたり、アゲハがサナギから羽化するのを観察したり、池の岩を飛び渡ったり、想像上のまちを泥で造ったりする、そんな機会がどんな子どもにも公平に与えられるようにしよう。このような経験こそが、エコロジカル・デモクラシーの支持者を育むのである。
4.「神話」:
長く信じられてきた神話の正体を、暴露しなければならない。企業に法人格を与え市民と同等の権利を付与しながら市民的な責任はほとんど負わせないという法律の誤った解釈、企業の資金に民主主義を売買する権利と環境を破壊する権利が与えられていること、土地はまず不動産でありコミュニティではないこと、美がエリートの専有物であり、専門家が定義し、他者がうらやむ地位を表すものであること、ランドスケープとは平坦で安全に作られている、技術がすべてを解決できる、などなどの神話である。他にもたくさんの神話があり、私はこれらの誤った考えに決して加担せず、打ち壊そう。
5.「資本」:
ラップトップコンピュータのキーを押すだけの仮想世界の投資が、常に短期利益を最大化し、遠く離れた場所の生態系と文化を破壊する。見えないものは、おもんぱかられることもない。グローバル経済は、一貫して自然システムの価値を無視してきた。私はこのような投資による破壊には手を染めず、逆に場所に根付いた資本による開発を支援し、場所に貢献するクライアントのために働き、彼らが投資するコミュニティに対し、責任ある行動をとろう。
6.「正しい美しさ」:
正しいランドスケープよりも美しいランドスケープはない。私は、美しさと正しさを同時に備える世界を作ることを誓う。私は、公平なアクセスと公平なランドスケープ資源(コスト、ベネフィット、喜び)の配置に責任をもってあたろう。私は、恵まれた人々のためだけではなく、社会を構成するすべての階層の人たちを歓待する場所を創ろう。すべての近隣地区に公平にオープンスペースを提供しよう。必要だが望ましくない土地利用を、人種や階級によることなく、公正に決定しよう。私はコミュニティの不公正を地図に落とし、戦略を定め、その不公正を共に克服する仲間を見つけよう。
7.「技」:
差し迫った危険は、ものごとを全体的に捉える創造性が発揮される機会でもある。行政区分ではなく科学的生態的な範囲を画定し計画を進める機会であり、価値がないと思われていたものを資源にデザインする機会であり、人々の心に触れる場所を創る機会なのである。私は、両立しがたく見えるものごとを妥協させるのではなく、最大限に対立させよう。私は専門とスケールの枠を打ち破ろう。私は自分の専門家としての力を用い、強い信念と勇気をもって行動し、価値観を変える想像すらされたことのないランドスケープに到達しよう。
8.「政治」:
すべてのデザイン行為は政治的な行動である。私のデザインは誰の政治に合うのだろうか。私たちが絡み取られ身動きできなくなっている政治の泥沼を、分解する必要がある。私は地域のランドスケープの固有性に根差したデモクラシーを思い描く。そこでは最も高貴な人間の価値とそれぞれの地域に生まれる特別な生態系が表現されるだろう。強靭で未来を見通した、全国、地方、近隣地区のガバナンスが必要で、現在の非効率なスケールの政府や自治体はこのガバナンスに組み込まれなければならない。私はこの全面的な刷新のリーダーシップをとろう。私は現在の状況を良しとはしない。私は社会的に不公正で生態的に不健全な法律に対して、不服従の態度をとる。私は構想し、交渉し、援助し、そして扇動しよう。それぞれが必要な時期がやってくるだろう。
What I believe. What I will do. How I will live.
Randolph T. Hester
Today and every day, I reaffirm interdependence. I offer gratitude to those prophets who declared interdependence before us: from the ancients Isaiah and Buddha to Harriet Tubman, Rachel Carson, and Karl Linn, among others. In their honor, I acknowledge responsibility to make places for life, liberty, and the pursuit of sustainable happiness. I believe every human spirit wants to be what it is and to become what it is capable of becoming. I believe that this can only be attained in the foreseeable future through an ecological democracy, a participatory government driven by systemic ecological thinking. This ecological democracy has been in the making for 250 million years, evolving in mutual dependence from sea slime to the landscape of humankind. I see our choice as living happily within our limits or perishing as ecological illiterates. I choose to bend this evolution toward sustainable happiness by committing our to the following actions:
1. Community.
That land is a community is the basic principle of ecology. So it has been for eons. Today all humankind is tied together in a single garment of destiny; whatever affects one community directly affects all indirectly. I honor the prophecies of Aldo Leopold and Martin Luther King, Jr. I commit to enhance both ecological and cultural community, as one indivisible unit, through each of our design actions.
2. Transactive language.
An ecological democracy demands a new civic language to elevate discourse, to allow citizens and designers to work together, and to enable the citizenry to make decisions informed by ecological science and native wisdom. This language will be as lofty as life-affirming symbiosis and civic duty, as provocative as proactive coastal retreat and living smaller, as explicit as the quarter-mile radius as the limit for pedestrian trips and the scare distance for birds at rest. I pledge to create this language.
3. Nature.
The natural landscape speaks in ways older than words, telling us all we need to know to survive, filling us with every sensual pleasure we need to thrive. Nature is the door to ecological understanding, the former experienced, the latter abstracted into principles of proper action. Even those unconcerned about the crises we face love nature. I will not stand silent to witness the last child in the woods. I will make nature accessible to every child in everyday life so that each one has an equal opportunity to be eaten by a mountain lion; to watch a swallowtail emerge from its chrysalis; to skip rocks on flat water; and to build imaginary cities from mud. Such experiences give birth to a constituency for ecological democracy.
4. Myths.
Long-held myths must be debunked. These include, but are not limited to: the legal misconception that corporations are people with the rights of individual citizens but with few of their responsibilities; that corporate money is entitled to buy and sell democracy and destroy the environment; that land is foremost real estate, not a community; that beauty is an elite domain, defined by professionals--a status object to be sought by others; that the landscape is flat or safely made so; that technology can solve everything. I commit to slaying these misconceptions and never contributing to them.
5. Capital.
Virtual capital invested by the push of a single key on a laptop invariably maximizes short-term profits by disrupting ecosystems and cultures in distant places--out of sight, out of mind. Global economies consistently ignore the value of natural systems. I commit that I will not be party to this; rather, I will help develop place-based capital and work for place-devoted clients, responsible to the communities in which their capital is invested.
6. Just beauty.
The landscape can never be more beautiful than it is just. i vow to make the world both beautiful and just, simultaneously. i commit to equitable access and distribution of landscape resources--their costs, benefits, and joys. I will create places that welcome all segments of society, not just the privileged few. I will provide open space equally in every neighborhood. I will locate necessary but undesirable land uses fairly, regardless of race or class. I will map injustices in our communities, set strategies, and find partners to overcome the injustices.
7. Skills.
Every imminent danger is an opportunity for holistic creativity to advance a plan based on a logical ecological unit rather than a political boundary, to design with resources others view as worthless, to make places that touch people’s hearts. I will maximize seemingly mutually exclusive oppositions rather than compromise them. I will violate boundaries of discipline and scale. I will employ my expertise to act courageously on convictions to achieve radical transformative landscapes never before imagined.
8. Politics.
Every design action is a political act. Whose politics will I style? I call for disassembling the politics in whose morass we are entangled and immobilized. I envision democracy grounded in the idiosyncrasies of local landscapes, expressing the most noble human values and distinctive ecological prognostications for each locality. Strong and visionary federal, regional, and neighborhood governance needs to subsume ineffective levels of government. I commit leadership in this overhaul. I will not tolerate the status quo. I will disobey unjust and ecologically unsound laws. I will envision, negotiate, facilitate, and provoke, each in necessary season.
「若い人に話しておくこと」
「私の基本的な信念や専門家としての行動は、雷に打たれたようにあの時始まった、というものではありません。成長期のさまざまな経験から、すこしずつ私のアイデンティティが形作られていきました。私は農場労働者として育ち、尊敬し大好きだった黒人の小作人たちと一緒に働いていました。そして鳥や蝶や小川、絵をかくことと走ることが大好きでした。高校に入ると、どんな授業にも夢中になりました。ティーンエイジャーとしては、かっこいいグループに入りたくて、いろいろやってみたけどやっぱりすみっこにいる少し変わった生徒でした。大学では、医学ではなく建築の道に進むことに決めて、家族をがっかりさせました。そして大学の教授が、私のような田舎育ちの子どもでも、学校で一番のデザイナーになれるし、プロでもやっていけると自信を持たせてくれたのです。たった一つだけあった生態学の講義と、たくさんの社会学の講義が面白かった。また年長の先輩と素敵な若い女性が、心の底の不安を乗り越え、自分であることに自信を持つことを教えてくれました。こうして私は、たとえ誰かと衝突しようと、自分の信念を伝えられるようになったのです。
ゆっくりとですが私は、最も優れたデザイナーはエリートのために働くのではなく、人々のためコミュニティのため、そして特に見向きもされない「私たちとは違う人々」のために役立たなければという信念を固めていきました。ボストンで最も著名な設計会社に就職が決まっていましたがそれを止め、マサチューセッツ州ケンブリッジ市での生活をたたみました。そしてノースカロライナ州ラレイ市の黒人ゲットーに住み込み、ここのコミュニティが、高速道路建設と都市再生のために押し付けられた全面撤去と闘い、退去計画を撤回させる活動に加わりました。その後住民たちは、自分たちでこの地区の改善計画を策定するのですが、これを支援しました。私はラレイ市の市会議員になりましたが、しかし議員としてはひどいものでした。それでも、ゴールを定め、人々と一緒にデザインし、参加を通して皆に共通の地盤を見つけだすという、コミュニティの外部からの提案者としては、とても良い仕事ができたのでした。仕事を始めたばかりのこの頃、私の関心は、社会デザインと環境的公正、そして参加にあり、これらすべてはデモクラシーに関わるものでした。
年月が過ぎてのち、自然とそれを根底で支えるエコロジーを愛する私の心とデモクラシーを結婚させることができました。この二つを結び付けるのには、何十年もかかったのです。日本に住んだことも、二つを結び付けるための大きな力となりました。そして今でも私の考えは、少ずつ進化し続けています。自分自身であること、自分がなりうるものになること、そんな風にして小さくても大事な変化を世界にもたらすことができるのです。」
An Explanation for Young People
My essential beliefs and related professional actions did not become clear like a lightning strike all at once. They grew organically from formative experiences in baby steps that shaped my identity. I grew up as a farm laborer, working with Black tenant farmers whom I loved and respected. I loved birds, butterflies, creeks, art and running. I devoured every subject in high school. As a teenager I tried hard to belong to the cool crowd but was marginal and more than a little weird. I disappointed my family by studying architecture instead of medicine. A professor convinced me that an unsophisticated country kid could be the best designer in school and professional practice. A class in ecology and lots of classes in sociology turned my head. An accomplished “big brother” and a lovely young woman helped me overcome basic insecurities, feel confident in being myself and expressing my values confrontationally. With all these baby steps I decided that the best designers should not work for the elite but rather serve the public, communities, and particularly marginal “others”. I turned down a job with Boston’s most distinguished corporate firm to work in Cambridge neighborhoods. I moved into a Black ghetto in Raleigh, helped the community stop a freeway and urban renewal clearance and develop their own plan for improvement. I was elected to the City Council but was terrible as an elected official. I was, however, extraordinary as an outside advocate, setting goals and designing with people, finding common ground through participatory methods. That set my course for my life’s work. At first I was most concerned about social design, environmental justice and participation-all related to democracy. In time I married my love of nature and its foundational companion ecology with democracy, but that was decades in the making. Living in Japan was central in that reconciliation. My thinking continues to evolve in small steps: being myself and becoming what I can become, hopefully making the world a bit better in ways that matter.