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ウィルス・パンデミックの風景

 

都市から人が消えた。ミラノもローマもパリもロンドンもNYもすっかり人影が途絶えた。

これが今日の社会とウィルスの関係を映し出した風景の一つだ。もちろん他にも、新たに生まれた風景はたくさんある。マスクをして距離を取る人々、家の中でのテレワーク・ネットゲーム・テレ講義、混乱する医療現場は、新たに生まれたり、広まったりしている風景だ。

一方で消えてしまった風景もある。それはまるで過去の記憶のように、昔の映像のように私たちの心にある。熱狂するサポーターがあふれる、感涙し大笑いする映画館、盛り上がるライブハウスやドームライブ、あるいは桜の下の笑顔の卒業式や入学式、大講義室での退屈な講義、もしかしたらサークルの新歓コンパも消えてしまう。狭い居酒屋で口角泡する談義などはもってのほかの風景だ。子どもたちが丸くなって食べる給食、花見、すべて失われた風景だ。

 

エコデモシートで見回してみる。左の欄に「社会」のことを書いてみよう。右の欄に「自然」を、そして中央の欄に「風景(ランドスケープ)」を書く。例えばこんな風。

 

【左 社会】 パンデミック、中国中央集権体制、報道規制、自由主義、基本的人権、国家、国境封鎖、検疫、排外主義、戦争、

グローバリズム、インバウンド、人の移動、難民、南北格差、国内格差、  濃厚接触、集団免疫、医療崩壊、隔離、皆保険、社会的距離

テレワーク、テレ講義、学校閉鎖、卒業式・入学式、イベント中止、  株価暴落、観光、飲食、ネット業界、巣ごもり消費  ワクチン、抗ウイルス薬 クラスター、スーパースプレッダー、オーバーシュート、ロックダウン(都市封鎖)

  

【右 自然】 新型ウイルス、温暖化、過剰開発、野生動物、家畜、人体への機序、パンデミック、高齢者・既往症、子ども、集団免疫、ゲノム(半分以上ウイルス由来)、温度と湿度、外気、ワクチン、

 

【中央 風景】 失われた風景 熱狂イベント、ライブ、花見、市場、講義、羽織袴の卒業式、

生じた風景 マスクの顔顔、がらがらの都市、飛行機、新幹線、警備員と警察、画面越しの会話、

変わらない風景 満員電車?、「戦争だ」、満開の桜、春

 

これらをじっと眺める。そして3つのコラムの間の関係を看取し、「エコデモ系」として抽出する。この際、書かれなかった物事、いまだ存在しない風景、なども大胆に想像し、組み込む。こうして、現在と歴史に根差しながら、未来をビジョンする方向性が見える 今回は3つの「エコデモ系」が見出された(もっとあると思うが)。それらはこんな風。

・エコデモ系 1 「戦争と政治の風景」

 

「戦争」はウイルスのせん滅が目的にならない。ウイルスを導出し増殖の速度をあげている社会システムの改変のためでなければならない。ウイルスは私たちの進化に関わり、もともとわたしたちの風景の一部だった(そこら中に漂っていて、変異の可能性はいつもある)。

いつか街に人があふれる風景が戻るとき、パンデミックを起こさない/起きても対処できる速度の社会になっていないといけない。

【社会】  「独裁体制・自由主義・民主主義」、どれにしても現状に対して厳格な対応を取らざるを得ない。独裁体制は、世界独裁が不可能(習、プーチン、トランプでさえギリギリ、世界は広大すぎ多様すぎる、しかしAI独裁はあるかも)であるから、恒常的現象であるパンデミックに対応できないことが、今回判明した。自由主義の欲望の解放によるグローバリズムがパンデミックの原因であることは明らかであり、移動制限がその対処となる。過剰開発による野生生物との接触、家畜の大量飼育、温暖化などもパンデミックの直接の原因である。一人一人が、ウイルスでもつながっていることを理解し、集団免疫のためのワクチンを待てる包摂の世界を作るしかない(生物の時間、群れとしての人間。エコロジカル民主主義)。

【風景】  人の消えた街 外出禁止令、巡回する制服警官、国境警備の軍隊、白と緑の感染防護服、野戦病院のような市中病院、どれも戦争の風景だ(見たことないけれど・・)。日常風景のある日本でも、マスクの顔顔顔、がらがらの新幹線、警備員のうろつく東工大キャンパス、人気なく満開の桜など、非常事態の風景が現れている。自分と愛する者の生命を脅かされる恐怖、それは確かに「戦争」の風景である。

【自然】  ウイルス しかし、人間のゲノムの半分以上はウイルスあるいはウイルス様の遺伝子の破片でできている(ジャンクゲノム、これは種としての進化の淵源)。 すべて生物は、ゲノムの海にあり、エントロピーを維持しようとするシステムである。システムは作動し、変化し、環境から異物を取り入れ進化できる。私たちという人間のシステムの作動環境として、当然のように季節があり湿度・温度・風があり、これら外部空間の環境がウイルスや細菌の伝播をコントロールしてきた。現代の人間は大規模に外部空間を消し、ウイルスとの距離を消した(閉鎖空間とし、恒温湿光環境を作り、生活を変えた)。

 

・エコデモ系 2 「ふれあうことの根源的価値」

 

非接触社会の風景が生まれている。濃厚接触=ふれあいの場は消えた。桜の下のお花見も、初春の爽やかな卒業式と入学式も中止、禁止だ。しかし、ふれあいの場は、根源的に人に不可欠だ。隔離の効果や集団免疫を知り、テレワークや講義の実用化が進み、そしてふれあいの根源的価値が発見・共有される。遠くにいる人とのふれあいをネットで、近くにいる人でもネットで良い場合はそれで。身体を共に置くふれあいが、独自に持つ至高の価値があり、そこではウイルスや細菌を共有し、風景と環境と生の時間を共有する相手(家族、友人、恋人)が在り、自分と世界が成立する。

【社会】   集団免疫、濃厚接触、隔離、スーパースプレッダー(インフルエンサー??)、クラスター 非接触社会 テレワーク、テレ講義、医療崩壊、皆保険、格差(国内外、移民、貧民、第3世界)

【風景】   消えてしまった風景 お花見、イベント、卒業入学式、居酒屋=接触の風景、

これらは戻ってくる。人は接触=ふれあい、濃厚接触を必要とするから。(イタリアではノンノ、ノンナ(祖父母)を孫が大切にするから感染が広がるという。日本は老人を施設にまとめて隔離しているから、触れ合ってないから感染していないのか?)。赤ちゃんはほぼ無菌の子宮から産道を通り血と粘液に触れ汚染され、母親に抱かれ乳を飲み、世界で生きてゆけるようになる 誰でも超濃厚接触から始まる。キスし、抱き合い、子どもができて、同じ釜の飯を食い、肩を組み、固く手を結び、胸襟を開くのだ。この風景は不変である。

ふれあいの風景は、パンデミックの後に、そのまま戻るのではない。世界中の人がウイルスや遺伝子を通して、命がけでつながっていること(触れ合っていること)を、一人一人が理解し、包摂の社会を構成し、社会的クラスターが支えあいの単位となること、その多様な在り方やアイデア、それを伝えるスーパースプレッダーが称えられる、そんな風景が生まれなければ。

【自然】   高齢者・既往症という命、死、生命の不条理。集団免疫の獲得、ワクチンで死亡者を少なく獲得できるか。進化。

・エコデモ系 3 「新しい経済、速度、屋外空間」

 

グローバリズムによる財と情報と金銭の移動の最後の段階である人の大量移動が、閾値を超えた。人はその周りに環境をまとわりつかせていて、それはまるで野生動物と同じようだ。他の環境を知り学ぶ観光産業は、オーバーツーリズムの弊害と共に、自然環境のかく乱をもたらすことも明らかになった。実体経済のグローバリズムの制約条件としてのパンデミックの顕在化は、経済全体に大きな変更を求める。変革的な適応(transformative adaptation)として、人々の欲求する価値を転換することが、その他の制約条件(温暖化、生物文化多様性)とも相まって、求められる。例えば、ファスト産業の抑制(エネルギーコストと享受する価値のバランス)を、気づきのきっかけとする。ゆっくりツーリズムでは、地元の人とゆったり交流し、世界の豊かさを相互に分かち合う風景が生まれる。

ウイルスとのバッファとしての屋外空間の再評価とその価値への気づきも、変革的適応の一つである。川、海、山、空×地球の公転と自転というビッグイベントの風景を、眺める目、楽しむ心を取り戻す。自然を怖れ(ウイルス!)、距離をとることが生み出す価値がある。

自然のリズム、それぞれの場所の自然と付き合いながら培われた文化のテンポ、これらを生活に組み込み、速度を落とし、エネルギー消費を抑え、野生の場所を尊重する、というビジネスの開拓と定着。ベーシックインカムによる労働の価値の転換も加わる。

【社会】   経済、グローバリズム、インバウンド、観光・飲食業、イベント産業 自由主義、欲望、生活  損害補填、税率引き下げ、貸し付け条件緩和、実体経済、金融経済、ベーシックインカム

【風景】   もっとゆっくりとした風景 例えば「観光は最低4週間の滞在型」(往復のエネルギー消費を割り振る。移動人口を減らす。土地に根付く。速度を落とす)。のんびりと他国の風景と風習を学びあう←観光の本来の意 

屋内化施設化から屋外・季節や天候や朝夕を利用したイベント施設。川、海、山×地球の公転と自転というビッグイベント

【自然】   地球温暖化、過剰開発 野生生物との接触 家畜の大量飼育 未知のウイルスとの接触、ウイルスの変異の機会の増加、

 

 以上、3時間のエコデモシートのワークから、今回は3つの「エコデモ系」を引き出しました。混乱する状況を総合的全体的に捉えたい、そうしないと部分に惑わされ振り回され、本当に大切なことを見失ってしまう/見失わされてしまう、という危機感から、今回の作業を試みましたが、自分でも驚くように、さっと思考が開けました。「自然と社会を同時に考える」という意味を、改めてかみしめています。

 エコデモシートは一人ではなく何人もで一緒にすると、本当に豊かになります。今回は私一人でやってみましたが、ぜひエコデモ財団の応援人も皆様とも一緒にやってみたいです。

エコデモ財団代表理事 土肥真人

2020.03.30

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